*咲希のお話部屋*

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『いい女の条件~彼から学んだ事』
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2019年02月

その日


彼と何を話したのは覚えていない。


彼を怒らせないように
早く切らなければ…と

なるべく穏便に話したせいか
彼の機嫌を損ねる事はなかったと思う。


ただ一つだけ

万引きした商品を
きちんと戻して
お店に謝りに行ってと

説教じみた事だけは
はっきりと言ってやった。

予想通り
「そんな事出来る訳ないだろ?」と
軽く笑われたけれど。


電話を切った後
この先、どうなるのか
不安でたまらなかった。

ところがその後
しつこく電話が来る事もなく
数日が過ぎた。

バイトも大分慣れ
常連のお客さんとも仲良くなってきた頃

お店に、どこかで見た事のある人が
やってきた…


「……あ、、、、」


見た目の雰囲気が全く違うので
一瞬わからなかったけれど…

彼女の存在を認識した瞬間

一気に重苦しく
嫌な気持ちになった。


「奈津さん…」


忘れよう…と思っているのに

どうして次から次へと
こうも偶然が重なるのだろう?

けれども
初めて会った時の
あの嫌な感じはなくて

女友達と一緒に
とても楽しそうに話していた。

黙ってスルーする事も出来るけれど


もし、彼女も
私の事を覚えていたとしたら…?

この狭い空間の中で
バレずにヒヤヒヤしながら
仕事をするのは無理があるし

無視するのは
やはりよくない…と思い
オーダーをとりにいくついでに
自分から声をかける事にした。


「こんにちは。…お久しぶりです。」


物凄く緊張したけれど
なるべく、にこやかに挨拶した。

けれども、彼女はびっくりした顔で
私をじっと見つめる。


「あの…ごめんなさい。」


「え?」


忘れられていたのだろうか…?


それとも…


「…もしかして…
奈津の知り合いですか?」


「あ、、、、はい。」


「私、妹です。」


「……え?」


私が声をかけたのは
妹の瑠香さんだった。







*

「開店そうそう、万引きが酷くてね…
ずっと目を光らせていたんだよ。」


事務所の中で店長さんがぽつりと言った。


「そうだったんですか…」


剛が逃げた後
私は、詳しい事情を聞きたいと
お店の人に言われ
事務所に連れていかれた。


「うち、防犯カメラが無いから
狙われやすいのかもしれないね。」


私も万引き犯として
疑われたのか?…と
不安でたまらなかったけれど

私と剛のやり取りは
店員さんも見ていたようで

私が彼に声をかけただけ…という言葉を
お店の人は、信じてくれた。


「彼とは知り合いなの?」


「いえ…たまたま見てしまったので
注意しただけです。」


咄嗟に嘘をついてしまった。


本当はちゃんと言えば
よかったのだろうけれど…

ここでまた彼と関わって
逆恨みされるのが怖かった。

結局、目的の物も買えず
私は、憂鬱な気持ちで家に帰った。



「今日の事…

純平に報告した方がいいのかな?

でも、、、

余計な心配をかけたくないし、、、、」


バイトをしている事も
秘密にしたいし、、、

私は、心苦しかったけれど
純平には黙っている事にした。



そして、それから数日後の深夜…


純平との電話を切って
ほんの少ししてから

知らない番号から着信した…



何となく怖くて
そのまま放置する。


すると…


数分後、SMSでメッセージが届いた。




震える指で
恐る恐る、メッセージを開く



『電話出ろよ。  剛』



そして、その数秒後


また、着信した。



鳴り響く着信音


しつこく、すっと鳴り続ける。


無視する事も
着信拒否する事も簡単だけど


自分のせいで
後々、純平に迷惑をかけるのだけは
避けたかった。



震える手を抑えて


私は、スマホの着信ボタンを押した。



「……もしもし?」


「やっと出た。」


「何の用ですか?」


「別に?暇だからかけただけだけど?」


「こんな夜遅くに非常識です。」


「何で、俺の事言わなかった?」


「え?」


「万引きの事

俺の名前…話せばよかったのに。」


「別に…関わりたくなかったから。」


「関わりたくないんだったら

何で、俺に声かけたんだよ?」



……確かに、彼の言う通りだった。


最初から
見て見ぬ振りをすれば良かったのに、、、


何故私は、声をかけてしまったのだろう?



矛盾した自分の気持ちが


正直、自分でも…



よくわからなかった。






*

花火大会の嫌な記憶がよみがえる。

奈津さんと
純平の間にあった過去の出来事…

そして

彼の心の傷…


なるべく彼らとは関わりたくないし
もう忘れようと思っていたのに、、、

何故……偶然にもまた
会ってしまうのだろう?


そのまま直ぐに帰りたかったけれど
カゴの中に商品が入っているので
そのまま帰る事はできない。


何とか見つからないように…と
彼が帰るまで気付かれないように
息を潜めていようと思ったけれど


私は、彼が商品を
こっそりポケットに入れるのを
偶然見てしまった。


「…うそ…万引き?」


さすがにその瞬間を見てしまい
黙っている事が出来なかった。

持っているカゴをその場に置き
剛に向かって歩いていく

そして、勢い余って
後先考えずに声をかけてしまった。


「何やってんの?」


万引きは立派な犯罪だ。

どんな理由があっても
絶対にしてはいけない。


けれども…

息巻いて声をかけたものの
彼がこちらを向いた瞬間

その眼光にたじろぎ
声がうわずってしまった。


「は?何?お前」


彼のドスのきいた声に
怖くて足がすくみ
身体がガタガタと震えてきた。


黙って見逃せば良かったのに…


他人のフリをすれば良かったのに…


どうして…出来なかったのだろう?


でも…後悔してももう遅い。


恐れている事を悟られたらナメられる。
そう思い、必死で彼を睨み返す。


「今、商品を…

ポケットに入れるの見た…よ。
それって…犯罪だ…よ。」


「るせーな、お前には関係ない。
てか、何でここにいるの?」


「バイトの帰りで……」


「バイト?何のバイト?」


「……言いたくありません。」


「あっそ。」


彼は、冷たい目で私を見ると
そのまま歩いてお店から出ようとした。


「ちょっと…待って。」


彼を追いかけていく


二人でお店を出た瞬間
店員さんに、声をかけられた。


「君たち…!」


その瞬間…


剛は、私を置いて
ダッシュで逃げ出した。

呆然とする私に
店員さんが話しかけてきた。


「少し…お話いいですか?」





*

翌日から、部活の無い金曜日を除いて
バイトに入る事になった。

必死でメニューを覚え
初日はもたつく事もあったけれど

梅田さんのフォローもあり
数日のうちに、たいていの事は
スムーズに出来るようになった。


「佐藤さん、お客様への対応も凄くいいし
評判いいよ!

青葉さんは、仕事も早いし
スタッフとももう打ち解けてるし
君たちが来てくれて、本当に良かった。」


マネージャーの梅田さんに
2人とも褒められて
とてもいい気分だった。


「なんか、当たりのお店だったね。ここ。

スタッフの雰囲気もよくて優しいし

仕事も大変だけど
あっという間に終わるし。」


「うんうん。」


「時間もぴったりに帰して貰えるしね。」


「それ、びっくりだよね~。

忙しい時って
帰るタイミングとか困っちゃうのに
梅田さんは、きちっと時間になると
声かけてくれて。」


「うんうん!」


ウキウキしながらバイトを終えて
軽い足取りで帰る。


「じゃあ、あたしバスこっちだから。
また明日ね!」

「うん!またねー!」


ミオと別れて、私は一人歩き出した。

隣町とはいえ
普段全くといって通る事はないので

見慣れない風景が何だか新鮮で
足取りも自然に軽くなる。

「あ、こんなところに
雑貨屋さんがあったんだ。」

新しくオープンしたお店を見つけ
思わずテンションが上がり、入ってみる。

ところが、お店に入り、しばらくして
会いたくない人を見かけてしまった。




…剛だった。






*

「バイト?」

「うん。」


翌週の昼休み。

私は、純平の誕生日の為に
密かに計画を立てていた。

「純平はケーキが欲しいって
言ってたんだけどね。

サプライズで
バッシュもプレゼントしようかなって。」


彼に聞こえないように
コッソリミオに耳打ちする。

「でも、バッシュぐらいなら
お小遣いで買えない?」

「そうなんだけど…

自分で稼いだお金で
プレゼントしたいの。

純平が私の為に
一生懸命頑張ってくれてるから
私も、純平の為に何かしたくて。」


私の言葉に
ミオは、ちょっぴり驚いた顔をしながら
私の手をギュッと握ってきた。


「あんたのそーいうとこ、好き。

そーいう事なら、あたしも応援するよ。
一緒にバイトしよう!」


「え?」


「1人じゃ不安でしょ?」


驚き、ミオを見つめると
彼女はニコニコしながら
ウンウンと頷いている。

「……いいの?」


「私も、再来月
山本の誕生日だから。」

ミオはそう言うと
軽くウインクした。

山本くんとは
変わらずラブラブらしい。

頼もしいミオ姉さん(?)に甘え
私達は、バイト探しを始めた。

あれやこれや悩んだ末
少し離れているけれど
ベーカリーカフェで働く事になった。

隣はパン屋さんが併設されていて
地元では人気のお店。


「厨房とかなら目立たないしね。」

「お皿洗いは、得意だよ!」


履歴書を持って面接に行くと
その場で2人とも即採用された。


「今、人手が足りなくてね
明日からでも来て欲しいんだけど。」


「はい。」


「あ、佐藤さんは悪いけど
ホールやってくれる?」


「えっ?」


裏方の募集だったのに
話が違うので、思わず動揺してしまう。


しかも、私だけ?


「今、ホールの人が足りなくてさ
申し訳ないけど、これ覚えておいて。」


マネージャーさんの梅田さんに
一枚の紙を渡された。

オーダーメニューの
短縮された呼び方の一覧表。


「これ、、、覚えるんですか?」

「うちは、オーダーは手書きなの。
大変だけど、よろしくね。」


面接が終わり
ミオとお店の外に出る。

憂鬱な気持ちになりながら
じっと渡された紙を見つめていた。

「私‥覚えられるかな?
たたでさえ、記憶力ないのに、、」

「そんなに品数ないし、大丈夫でしょ!」


ミオに励まされるものの
心は重く沈み込む。


「せっかく一緒にバイトに入ったのに
別々のところで仕事なんて、、、」

「まぁ、仕方がないよ。
まゆ、かわいいからさ。」

「どういう意味?」

「ここのお店、ウエイトレスは
顔で選ばれるって噂だよ。
それ目当てに来る人もいるみたいだし。」

「嘘!?何それ?」

「まぁ、深く考えない!
とにかくがんばろー!」


こうして


不安な気持ちを抱えながら


私は、バイトを始める事になった。





*

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