彼は、男の頭を
背後から思いっきり蹴飛ばした。

不意打ちをされた男は
そのまま倒れ、うずくまった。


「早く逃げろ」


彼にそう言われたものの
あまりの恐怖に
腰が抜けて動けない。

私がモタモタしていると
男は起き上がり
怒りに満ちた顔で
剛に向かって殴りかかってきた。


「…てめぇ…」


剛は、頭から突っ込んで行ったものの
あまりの体格差に
どう見ても、剛に勝ち目はなかった。


「モタモタしてんな!!

早く行け!!」


彼が暴れる男を
必死で抑えつけてくれている間に

震えてよろめきながらも
壁伝いに、何とか必死で立ち上がった。


「ごめ…なさい。」


私は、剛を置いて

靴も履かずに
そのまま建物から飛び出した。


外は真っ暗で


今が何時なのか

ここはどこなのか

全然わからなかった。


足がふらついて
途中で何度も転びかける。

けれども
一目散に走った。


しばらくしてから
急激にさっきの恐怖が襲ってきて
ガタガタと身体が震えだした。


怖い…よ…


フラフラとさ迷っていると
スカートの中から
ブブブ…と、振動が聞こえた。

驚いてビクッとなるものの
恐る恐る
ポケットの中のスマホを取り出す。


着信はミオからだった。


「……もし…もし?」


出た瞬間、電波が悪かったのか
切れてしまった。


「……ミオ?


もしもし?……ミオ!!!」


かけ直そうと思うものの
混乱して
操作がうまくできない。


手が震えて


頭が回らない。


ミオからも……連絡が来ない。


どうして、、、、、、?



誰か…



お願い……



助けて……



頭がパニックで
ただ、電話をかけるという
単純な行為が
全く思ったように出来ない。


そんな時

ふと、デスクトップの
アイコンが目についた。

以前、雄大に作ってもらった
ショートカットアイコンだ。


『何かあったら

ここを押すだけで繋がるから。』


藁にもすがるような気持ちで
震えながらタップする。



RRRR …RRRR…




お願い……出て……



「もしもし?」



雄大の声を聞いた瞬間


思わずほっとして
涙がポロポロとこぼれ落ちた。

力が抜けて
ぺたんとその場に座りこむ。



「まゆ…?


泣いてるのか?」




「おね…がい…



たす……け……て。」




*