「何笑ってんだよ!」
「いや…別に。」
駅までの道のりを
彼と一緒に歩く。
さっさと別れたいのに
そのタイミングが掴めなくて
正直…困っていた。
途中、細い道に差し掛かった時
彼はさりげなく
車道側に移動してくれた。
意外と優しいんだな…
ふと、そんな事を考える。
とても無愛想だけど
ハタから見ると
見た目も普通だし
身のこなしも悪くはない。
ただ…喋り方はなっていないけど。
悪い人ではないのかもしれない。
「奈津さんは…元気?」
「さぁ?
最近は会ってねぇし。」
「電話かかってくるけど、無視ってる。」
「うそ…何で?」
あんなに奈津さんに一途だった人が?
……正直、信じられなかった。
「違法ドラッグに手を出したみたいで
変なやつらとつるんでいるし
もう付き合いきれねぇよ。
俺にも売りつけてくるしさ。
俺、一応進学するつもりだし
あんまりゴタゴタに巻き込まれたくない。」
「じゃあ何で、万引きしたの?」
「言っちゃう。」
私の返しに
彼はぷっと笑い出した。
「時々、ストレスでさ…
衝動的にやりたくなんのよ。
やめなくちゃって、わかってんだけど。」
「もう、絶対にダメだよ?」
「まぁ…やる時は
バレないようにやるさ。」
私が大声を上げると
彼はびっくりした顔をした。
「……嘘だよ。
お節介ババアがウルサいからな。」
「誰がお節介ババアだって?」
私が怒ると
今度はゲラゲラと笑い出した。
しばらくは
くだらない雑談をしていたのだけど
その後、急に無言になった。
何か…考えているのだろうか?
何となくだけど…
寂しそうに見えた。
「俺と一緒にいるとさ
あいつ、甘えちゃうから。
少し離れようかなって。」
「好きなのに?」
「それも一つの愛情だろ?」
「奈津も…
あんたみたいな女友達がいたら
あんな風にはならなかったのかもな…」
「………」
何だか、彼の言葉の
一つ一つに
深い意味が
込められているような気がして
胸がチクリと痛んだ。
*